債権回収/売掛金・代金・貸金の請求について
疑問、質問についてわかりやすく解説します。
Q3、債務承認弁済契約・準消費貸借契約とは?
〜代金を支払わない相手に支払いを確実にさせる契約手続〜
A社は、納入した商品の代金を払ってくれません。
A社との間には売買契約書は作成していません。
先日、A社から「分割で支払いしたい」と提案がありました。
一括で支払いできるような財政状況ではないようなので、
当社は応じる意向です。
しかし、A社は今まで、約束の支払期日を守ったことが無いので
心配です。
良い方法はありますか?
A3
A社との間に売買契約(商品を納入するA社との間の取り決めが売買
契約になります)に基づいて改めて契約書を作成することが良いでしょう。
可能であれば、公正証書で作成するようにA社に依頼しましょう。
改めて締結する契約は以下で説明するとおり、「債務弁済契約」又は
「準消費貸借契約」となります。
債務弁済契約
従来の債務を改めて承認して、弁済の方法や返済の条件を定めた
契約を債務(承認)弁済契約といいます。
改めて債務者に債務を承認させることにより、返済を確実なものに
させる心理的な効果とともに、消滅時効を中断(債務承認、詳しくは
「消滅時効中断
」をご覧ください。)する効果もあります。
公正証書で作成した場合は、上記に加えて、債務名義を取得する
効果もあります
(訴訟手続き等の費用時間のかかる手続を経ずに、強制執行の申立が
できます)
詳しくは公正証書
をご覧ください。
債務弁済契約でも、本件のように、売買代金の債務を承認させて、
返済の方法を定めることが可能ですが、「準消費貸借契約」という契約を
選択することもできます。
「準消費貸借契約」は「消費貸借契約」とは厳密には異なるが、消費貸借
契約と同質の効果、目的を有する契約と法定(民法587条)されています。
消費貸借契約
消費貸借契約とは「当事者の一方が種類、品等及び数量が同じ物をもって
返還をなすことを約束して相手方より金銭その他の物を受け取ることを内容
とする契約」です。(民法587条)
例えば、相手からりんごを受けとって、3日後に返す約束をしたら、3日後
には、受け取ったりんごとは異なるが、種類や重さが同じりんごを(スーパ
ーで買うなどして)返還すればよいということになります。
消費貸借契約と貸借契約との相違は、貸借契約であれば、受け取った
りんごを食べないで、保管しておいて、3日後にそのりんごを返すということ
になります。
消費貸借契約では、受け取ったりんごを食べても良いが、3日後に同じ品質
のりんごをスーパーかどこかで買って返すということになります。
現実には、「消費貸借契約」は、金銭の貸借が圧倒的に多く利用されてい
ます。
準消費貸借契約
準消費貸借契約」とは民法587条によって定められている
「消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある
場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したと
きは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす。」
とされる消費貸借のことです。
例えば、AさんがBさんからりんごを500円で買って、3日後に代金の
500円を支払う約束をしました。(売買契約)
Aさんは、Bさんに代金支払義務があり、(500円は買掛金となります)
Bさんは、Aさんから代金を受領する権利があります
(Bさんにとっては、この代金は売掛金となります)
「AさんがBさんに代金を支払わなければいけない」(売買契約)
という状態は、
「AさんはBさんから500円を支払わなければいけない=500円を借りて
いる」(消費貸借)と同じ状態であるから、Aさんの代金を消費貸借の目的
にする、つまり代金の分をBさんから借りていることにする。
このことが「準消費貸借契約」となります。
契約書には、「AさんはBさんに買掛金(代金を支払う義務のある金額)が
あることを確認して、その買掛金を消費貸借の目的(Bさんの貸付金)と
する。」という文言が入ります。
AさんとBさんとの間の「売買契約」を基に「消費貸借契約」を締結すると
いうことは、「AさんがBさんからりんごを買った代金を支払う契約」を基に
「AさんがBさんから500円を借りた契約」をするということです。
基の金銭給付の原因が、「消費貸借」(金銭の貸し借り)によらないで、
他の原因(売買)によるので、「準消費貸借」というのです。
BさんのAさんに対する「売掛金」(Aさんにとって買掛金)が
「準消費貸借契約」により「貸付金」(Aさんにとって、借金)となる。
ということになります。
この場合、契約の基になっている売買契約と準消費貸借契約が別個独立
した関係になるわけではありません。
準消費貸借契約は売買契約が有効に存在することを前提に有効に成立し
ます。
効果(メリット)
準消費貸借契約のメリットは、上記で述べた「債務承認弁済契約」の
メリットに加えて、消滅時効の期間を延長する効果もあります。
売買代金の消滅時効は2年、貸金の消滅時効は商事債権(商人、事業者
の貸付、商行為の貸付)の場合5年、民亊債権(個人間の貸借)は10年
となります。
準消費貸借契約は消費貸借なので、貸付金となり、事業者間では5年と
なるのです。
債務弁済契約と準消費貸借契約の効果の相違
本件について言えば、元々の債権債務関係は「売買契約」ですから、
売買代金債権の消滅時効は2年となります。
(詳しくは「短期消滅時効
」をご覧ください。)
本件について、「債務(承認)弁済契約」を締結したとすると、
本来の時効
期間は変更はないので、2年の期間の変更はありませんが、「債務承認」
をする契約ですから、
「時効中断」をする効果はあります。
(詳しくは「時効の中断
」をご覧ください。
中断した時点から2年間の消滅時効期間が改めて開始されることになります。
「準消費貸借契約」は、売買代金債務を「貸借」に代える、つまり、
「今までの売買代金債務を
改めて現金で貸し付けたことにしよう」という
契約ですから、売買代金の消滅時効期間=2年が貸借の消滅時効期間
(商行為の場合5年)になるわけです。
よって、本件においては、(消滅時効期間の観点から考察すると)
「準消費貸借契約」を選択したほうが、質問者の方にとって、メリットがあり
ます。