「時効の更新」(旧法では「時効の中断」)とは、時効期間が進行中
に、ある状態が生じた場合に時効期間がリセットされ、再びゼロから
スタートすることになることです。
(例:
消滅時効期間が5年の場合、もう3年経過していて、あと2年で
消滅時効が完成するようなときに、更新があると3年が0になり、再び
0時点から5年経過しないと消滅時効が完成しません)
具体例: 訴訟手続きにおいて判決が出されその後(判決が)確定(訴訟
の終了)、または確定判決と同一の効力を有するもの(例:和
解、調停)により権利が確定した場合、そのときから新たに時効
期間が開始されます(時効の更新)
時効の更新の具体例
1 確定判決・確定判決と同一の効力を有するものによる権利の確
定 (147条2項)
2 強制執行・担保権の実行・担保権の実行としての競売手続・財産
開示手続の事由終了時 (148条2項)
3 債務の承認(152条1項)
まとめ
消滅時効が
更新されていなければ、消滅時効が完成している可能性
があります。
「消滅時効の
更新」とは、進行している時効の期間が中断され更新さ
れることで、中断された時効期間はその後、再びゼロからスタートする
ことになります。
確定判決によって確定した権利の時効期間
確定判決※2
によって確定した権利については、もともと10年より短い時効 期間の定め(短期消滅時効
)があるものであっても、その時効期間は10年となります。(民法169条第1項)
※1 令和2年4月1日以降、民法改正により「短期消滅時効制度」は廃止されました。詳しくは「短期消滅時効
」をご覧ください。
裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって
確定した権利についても同様です(同条同項)
また確定時に弁済期の到来していない債権については適用されません
(同条第2項)
仮執行宣言が付された支払督促
で、督促異議の申立て期間内に異議の申立てがない場合又は督促異議の申立てを却下する決定が確定したときは、支払督促は確定した判決と同一の効力を有する(民事訴訟法396条)ことになり、その場合も時効期間は10年となります。
公正証書
を公証役場に作成嘱託し、公正証書が作成された場合には、作成時点から時効期間は開始されますが、確定判決と同様にどのような権利でも一律10年となる規定の適用はありません。
公正証書は金銭等に関する権利について債務名義となり、強制執行の申立てができますが、確定判決とは異なり、民法174条の2の時効期間の適用はありません。
※2
「判決が確定した」という状態とは判決が言渡されて上訴されないで
一定
の期間(上訴期間)が経過した場合、通常の不服申し立てによっ
ては、その結果を覆すことができない状態のことです。
強制執行が執行不能(空振り)になった場合
強制執行は差押であり時効中断事由(民法152条)ですが、空振りの場合
(執行が不能に終わる等の事情で強制執行ができなかった場合)はどうなるのでしょうか?
通常(空振りでない場合)は強制執行申立の時点が中断となります。
強制執行を申し立てたが、差押対象目的物に資産価値がない、若くは 差押禁止物だった等若しくはその他の事情で強制執行が執行不能になった場合についてどうなるのか?
実務現場で良く遭遇するのは債務者の口座を差し押さえたが、空(0円)だった。または口座自体が無かったという事例です。
過去のある判例では、差押目的物に対して執行が不可能になった場合に、債務者への「差押命令」の送達がされている事例において、消滅時効は中断されるとされました。(判例)
上記判例の趣旨に照らせば債務者に対して差押命令が送達されなかった場合には、消滅時効は中断されないと考えられます。
しかし、下記で説明していますが、判例も多様であり、明確に断定できるような判例がでているわけではありません。
旧民法154条では「差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、
時効の中断の効力を生じない。」とされていますから、
裁判所による取消の決定や申立者が取り下げた場合は、中断の効力は生じないことに注意が必要です。
(ただし、過去の判例では、執行不可能になって取り下げた場合で時効中断の効力は生じているとする判例、同じ条件で執行不可能の場合に取り下げた場合に時効中断は生じないとする判例、執行可能であるにも関わらず、債権者の意思により取下げた場合に時効中断を生じないとする判例(本判例は比較的わかりやすい)等、状況に応じて判断が異なる判例もあり明確に「強制執行を取りさげたからどうだ」とはいえないところもあります。
尚、旧民法154条は、新民法(令和2年4月1日施行)では、148条となり、「強制執行が終了するまでは時効が完成しない」ということになっています。
そして同条2項において手続き終了時から新たに時効の進行が始まる(旧法でいう中断・新法の更新)旨の規定が置かれ、「申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない(中断・更新しない)」として旧民法154条の趣旨がそのまま残っています。
新民法148条(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十八条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
また、債務者以外のものに対する強制執行手続(担保を提供した者が債務者以外の者である場合や保証人の資産に執行する場合等)は債務者に通知をした後で
ないと中断の効力は生じません。(改正民法154条)
消滅時効期間経過後の各種事象発生の問題
消滅時効の期間が経過した後に(対象とする債務の訴訟上の請求での)判決が確定したり、債務承認をした場合、どうなるのでしょうか?
消滅時効の期間が経過した後の各種事象は、消滅時効の中断・更新の問題にはなりません。
消滅時効の中断や更新は、消滅時効の期間が経過する前に発生した事象により、中断(旧法下)・更新となる場合であり、消滅時効期間経過後に発生した場合は、中断・更新とはなりません。
消滅時効期間経過後に消滅時効完成による消滅時効の援用の主張をしないまま、中断・更新事由が発生した場合はどうなるのでしょうか?
具体的にみていきましょう。
1 判決確定
債務の消滅時効期間経過後に訴訟が提起されて、債権者の主張が認められて判決が確定した場合、訴訟上で消滅時効の主張をしなかった場合や、欠席裁判の場合等で、判決が確定した場合はその債務について既判力が認められますので、もはや消滅時効の主張・援用は認められなくなると考えられています。
※ 既判力とは、確定判決で示されたその目的とした事項に関する判断につき、当事者は別の裁判で別途争うことができなくなり、裁判所及び当事者も確定判決の判断内容に拘束されるという効力
2 債務承認
消滅時効期間経過後に債務の承認をすることは、消滅時効が完成していても消滅時効の権利を放棄することと同様の結果となり、消滅時効の援用をすることはできなくなります。
(
昭和41年4月20日最高裁判例)
消滅時効完成後に債務の承認(弁済、和解、債務弁済契約書の締結等・・)をした場合は、時効完成後なので、時効の更新という問題にはなりませんが時効援用権の放棄とみなされて、もはや消滅時効の援用をすることはできなくなります。
和解については、任意の和解でも訴訟上の和解でも債務承認となるので同様です。
3 支払督促
支払督促については、最近、注目すべき判例があります。
消滅時効期間経過後に、支払督促が確定した場合、消滅時効の中断・更新は生じないし、消滅時効の援用ができなくなることはありません。
(令和2年10月21日宮崎地裁判決)
支払督促とは、訴訟手続きを経ないで、裁判所の書記官が債務者に支払を命じる制度です。
仮執行宣言付支払督促は、判決と同様の強制力が与えられる処分手続きです。
支払督促も仮執行宣言付支払督促も、1「判決確定」で説明した判決確定で生ずる「既判力」はありません。
上記「
確定判決によって確定した権利の時効期間」にて、支払督促の確定は判決の確定と同様の効果があると説明しましたが、それは、消滅時効期間経過前の時効の中断・更新の問題です。
消滅時効期間経過後に支払督促が確定しても支払督促にはもともと「既判力」がないので、消滅時効援用の主張が認められないということはありません。というのが、上記判決の判断のようです。
「支払督促」には既判力がないので、確定判決と同様の効力はないので、
消滅時効援用が認められるということはわかりました。
では、支払督促の手続で債務者(請求された人)が何ら支払督促に対して
異議申し立てをせず、放置していた場合でも消滅時効援用は認められるのでしょうか?
そのことについて宮崎地裁判決では「債務者のそのような消極的対応は
時効による債務消滅の主張と相容れないものとまではいえず、信義則に反するとはいえない」として時効の援用が認められるとの判断をしました。
上記判決は地方裁判所での下級審判決であり、今後、上級裁判所において上記内容と異なる判断が下される可能性はあります。
今後の司法判断を見守りながら、対応していかなければなりません。
4 強制執行
消滅時効期間経過後に強制執行(差押)がなされた場合、債務者が消滅時効の主張をするのであれば、消滅時効完成後の強制執行となり、債権は請求することができなくなり、債務者は債務の履行責任を免れます。
つまり、消滅時効の文字通り、債権は消滅すると言って差し支えない状態となります。
強制執行の根拠原因となる債権が行使できないわけですから、強制執行
自体が有効ではないことになります。
しかし、債務者が異議※を申し立てずに強制執行をそのまま放置すると、強制執行自体は有効になされます。
しかし有効になされたからと言って、消滅時効に影響はありません。
つまり、消滅時効期間を延長させたりリセットすること(時効の更新・中断)にはなりません。
消滅時効期間は経過しているのですから、期間経過後に時効更新(中断)
事由である「強制執行」を実行しても中断・更新の問題にはなりません。
よって、強制執行がなされたとしても債務者からの消滅時効の援用主張は可能であると考えられます。(本見解は当職の調査する限りの範囲で明確な判決や説は確認できていません。)
※ 債務者が消滅時効が完成していることを主張して「強制執行」の無効を主張する場合、「請求異議」の訴えを提起します。
その裁判の中で「消滅時効の完成(=強制執行手続の無効)」が争われます。
また、その訴訟手続きだけでは、強制執行の手続き自体は影響を受けないので、債務者が強制執行手続自体を止めるためには、訴訟提起と同時に「強制執行停止の申立」をおこなわないと強制執行手続は進行します。
消滅時効の起算点と期間計算
短期消滅時効
一般的に民法で債権(代金等を請求できる権利のこと)の消滅時効は
10年と定められています(民法167条1項)
債権又は所有権以外の財産権は20年となります。(民法167条2項)
しかし、実際には、多くの債権で「短期消滅時効制度」が定められて
いて、10年よりも短い期間で消滅してしまうことが多いのです。
民法改正により「短期消滅時効の制度」は廃止されました。
令和2年4月1日以降発生した債権について消滅時効の完成する期
間は、「権利を行使することができることを知った時から5年、権利を
行使することができる時より10年」となります。
(新民法166条第1項)
詳しくは「短期消滅時効」をご覧ください。
消滅時効の起算点と期間計算
消滅時効の起算点(開始時点)はいつになるのでしょうか?
消滅時効の期間の計算はどうするのでしょうか?
具体事例を用いてわかりやすく解説しています。
「消滅時効の起算点と期間計算
」をご覧下さい。
令和2年4月1日施行された改正民法により、消滅時効の規定も新しく変更されましたが、令和2年4月1日より前に権利が生じた場合とその日以降に権利が生じた場合とでは、適用が異なります。
令和2年4月1日より前に権利が生じた場合(例:AさんがBさんに令和2年1月1日に50万円を貸した。)は旧法が適用されて改正後の新法は適用されません。
令和2年4月1日以降に権利が生じた場合は、(例:AさんがBさんに令和2年5月1日に50万円を貸した。)新法が適用されます。
(根拠:民法の一部を改正する法律附則10条 1項、4項)
よって、以下説明することは旧法の説明と新法の説明を並列的にしています。
説明書きの箇所に旧法の説明は(旧法)、改正後の新法の説明は(新法)と記
載しています。
新法では、消滅時効の完成する期間は、「権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時より10年」となります。
(新民法166条第1項)
「権利を行使することができる」というのは、例えば金銭貸付で支払期日が経過したことにより、「貸金を返してください」と請求できることをいいます。
消滅時効の期間が経過していて、その間に「時効の完成猶予又は更新」(旧法では「時効の停止」、「中断」)となるような事実がない限り、 消滅時効が完成することになります。
(新民法147条)
「時効の完成猶予」とはある事由(事由とは物事の理由・原因、又はその事実)が発生した場合に、一定期間時効が完成せず、猶予されることです(旧法では「時効の停止」といいました)
「時効の更新」(旧法では「時効の中断」)とは、時効期間が進行中に、ある状態が生じた場合に時効期間がリセットされ、再びゼロからスタートすることになることです。(例: 消滅時効期間が5年の場合、もう3年経過していて、あと2年で消滅時効が完成するようなときに、更新があると3年が0になり、再び0時点から5年経過しないと消滅時効が完成しません)
「時効の完成猶予」の具体例は、訴訟を提起されたり、強制執行(差押)されたりすること等になります。
そしてそれらの事由が当初の目的を達成して終了した時(取下や取消等で中途で手続きが終了せず、手続きが最後まで行われた)から、再び時効期間が開始されます(時効の更新)
具体例:訴訟手続きにおいて判決が出されその後(判決が)確定(訴訟の終了)、または確定判決と同一の効力を有するもの(例:和解、調停)により権利が確定した場合、そのときから新たに時効期間が開始されます(時効の更新)
自分が債務を承認(借入のあることを認めること)することは(残額の一部を弁済したりすることも承認となります)完成猶予ではなく即時に「時効の更新」となります。
(民法152条)
債権回収の具体事例
債権回収は、具体的にどう進んでいくの?
依頼した場合どのような流れになるの?
債権回収の手続きの流れを具体的な事例を用いてわかりやすく
ストーリー構成にして説明します。
1、
Dさんの請負代金請求
(契約書がない、相手が仕事の不備を理由に代金を支払わな
い)
2、 A君の貸金返還請求
(個人間の貸借、契約書がない 相手は金がないからと返済
をしない)
3、 Aさんの売掛金(売買代金)請求
(契約書がない、少額債権、消滅時効期間完成が間近)
4、 Bさんの売掛金請求
(契約書がある、仮差押手続きを申立て請求)
5、 Cさんの売掛金(売買代金)請求
(契約書がない、相手はCさんから商品を買っていないと主張)
債権回収Q&A
債権回収に関してよくある質問、知りたいこと、疑問点について
わかりやすく説明しています。
債権回収Q&A をご覧ください。
債権回収手続きサイトの目次
債権回収手続きに関して、本サイト中でどんな場合にはどんな頁
を参照すればよいのか?
それについては「債権回収手続きについてのご案内」
をご覧ください。
債権回収の注意事項
1、
消滅時効 いつまでも放置しておくと回収が不可能になりま
す。
2、
契約書がない。証拠が無い。
回収が出来ないとあきらめる前に先ずご相談ください。
口約束だけでも回収できる場合も結構あります。
債権回収の具体的受任業務案内
当事務所の債権回収の受任業務内容についての具体的な例示
事項は下記のとおりです。
下記に項目がない場合でも、対応できる業務は多数あります。
お問い合わせください。
売買代金(売掛金)
小売店の売買代金、飲食店の飲食代金、部品、出版物、
その他様々な売買代金(物を売ったが、代金を払ってくれない)
請負代金
デザイン、看板、設計 ○○製作 修理、
請負工事代金
建築工事、リフォーム工事(内装・外装工事)
養育費、慰謝料の請求
離婚した元配偶者が養育費を払ってくれない。
医療機関、歯科、美容整形等の医療費・診療報酬
レンタル代金、リース代金
各種美容業務料金
エステサロン、ネイルサロン、整体マッサージ
各種学校・教室の受講料金・授業料
学習塾・予備校・技能学校・専門学校・各種教室の
(ピアノ・ダンス・絵画・茶道・パソコン・語学等)レッスン代金
敷金返還請求
詳しくは
敷金返還請求 をご覧ください。
滞納家賃、管理費用
家賃滞納に伴う建物明け渡しに関しては
「建物明渡請求」サイトを
ご覧ください
個人間の貸借の返還請求
個人間で貸したお金の取り返し
注:下記の債権については、当事務所では受任できません。
※
営業目的の貸付による貸借については受任いたしません。
※
利息付の約定で貸し付けた貸借については受任いたしません。
上記に例示されていないその他未入金、未回収の債権についてお気軽に
ご相談ください。