消滅時効の起算点と消滅時効の期間計算の方法について詳しくは「消滅時効の起算点と期間計算」をご覧下さい。
債権の消滅時効は、権利行使が可能なときから起算します。
(民法166条1項)「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。」
例えば、Bさんの返済期日を「平成23年5月末日に一括で返済すること」と定めていた場合は、具体的には23年の5月31日に
「期日がきたので返済しなさい」と請求することができます。
5月30日までは返済しなくても約束違反でないため、Aさんは債権という権利を行使する(例えば貸した金を返しなさいと請求すること)ことはできませんが、5月31日の午前0時を過ぎると債権の権利行使ができるということになります。
しかし、5月31日を返済期日とすると言うことは5月31日の午前0時に返しなさいということではなく(返済するときを時間単位で設定した場合を除く)5月31日の午前0時から午後12時までの間(終日)に返しなさいということなので、例えば、5月31日の午後3時に返さない場合でも法律上は約束違反と言う話にはなりません。
しかし、債権者は返済期日である5月31日に権利を行使できるのでその日には貸金を返しなさいと請求することはできるのです。
民法166条の条文上は5月31日の時点から消滅時効の期間が開始されます。しかし期間の計算は民法の初日不算入の原則に従い(民法140条 初日を期間に入れない)6月1日から開始されます。
時効の起算点は平成23年6月1日となります。
そしてAさんとBさんの返済方法は、平成20年の5月末日から毎月末に1万円づつ返済するという約束で、
なおかつ1回でも返済を怠れば、全額を一括で返済すると言う約定があるので、毎月の返済期日に1万円の
支払いが無ければ、その翌日から債務の(残額の)全額について債権を行使できるし、債務残額の全額についてその
日を起算点として消滅時効の期間が開始することになります。
Bさんは平成23年6月末日の支払いを怠っているので、7月1日から消滅時効の期間が開始されます。Bさんに貸した債権が商事債権(消滅時効の期間は5年)であれば、28年6月30日に消滅時効の期間が満了しますので、28年7月現在では消滅時効が完成しています。
そして主債務者のBさんが行方不明になっていてもC社が保証人として主債務の消滅時効の援用※1をすることができます。
※
1
時効の援用とは、時効によって利益を受ける者が(援用権者)が時効の成立を主張すること。
時効による権利の取得・消滅は期間の経過により自動的に発生するものではなく、援用があってはじめて確定的に取得の権利が生じたり、権利が消滅する。
Bさんの債務が民事債権によるものであれば、Bさんの消滅時効の期間は10年なので、28年7月時点では消滅時効は完成していません。
この場合でもC社は自社債務である保証債務の(消滅時効の期間満了による)消滅時効の援用をすることはできます。
以上は時効の中断について考慮しないで時効期間を計算しましたが、本事案では、BさんはAさんに平成24年1月に5000円弁済しています。
「弁済」は債務の承認とみなされ、時効の中断事由となります。(民法147条)
そして約定どおりの金額でなくても「承認」となるので、平成24年1月15日に時効の中断が生じます。
そして新たな時効期間は同日から開始されます。(期間の計算は民法140条により翌日から計算)そうすると商事債権の場合、
主債務の消滅時効期間満了は平成29年1月15日(民法140条、143条2項により、初日不算入による計算)となります。
民事債権の場合、平成34年1月15日となります。
保証人の保証債務と主債務の関係
BさんがAさんから借りた債務について保証人C社がいる場合、Bさんの債務を
「主債務」C社の債務を「保証債務」といいます。
主債務の保証債務への影響
主債務が弁済等により消滅した場合は保証債務も消滅します。(付従性といいます)
そして主債務が消滅時効期間の経過により消滅した場合についても、保証債務も消滅します。
保証債務の主債務への影響
保証債務が消滅時効等により消滅した場合は、
主債務は消滅しません。
また、
保証債務について時効の中断があっても主債務に影響しません。
(民法148条)
「前条の規定による時効の中断は、その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。」
しかし、主債務に時効中断があった場合は、保証債務の時効も中断するとされています
(民法457条1項)
「主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。」
Bさんの主債務が民事債権であれば、Bさんの主債務は現時点(28年7月)では消滅時効は完成していません。
しかし、C社の保証債務は商事債権なので、現時点(28年7月)で消滅時効が完成している可能性があります。
28年6月30日に消滅時効期間が満了したとすると、C社は翌日、消滅時効の援用による債務の消滅を主張できます。
Bさんの主債務が商事債権による債務であれば主債務も同日消滅時効が完成しています。
そしてC社は、Bさんの主債務が商事債権による債務であれば(消滅時効が完成しているので)、主債務の消滅時効も(同日完成しているので)援用できます。
(大正4年7月13日大審院判決 保証人が主債務の消滅時効の援用ができる)
この場合、消滅時効が完成する時点までにAさんが(Bさんに対して)時効の中断の措置をとっていれば(訴訟提起等)時効の中断となり、主債務は消滅しません。
(行方不明者に対する訴訟手続も公示送達手続により行うことが可能です)
そして主債務に生じた時効中断は保証債務に及ぶので(民法457条1項)C社に対しても保証債務の履行を請求できます。
時効の中断(新法での更新)よる影響
本事案では、BさんはAさんに対して平成23年6月末日以降返済をおこたっており時効期間は開始されていますが、
Bさんは平成24年1月15日に5000円の弁済をしています。
弁済は債務の承認となり、時効の更新(中断)事由とされていますので(新民法152条)その日から新たな時効期間が開始されます。
上記「時効期間の算定」で説明したとおり、主債務が商事債権によるものであれば平成29年1月15日、
民事債権であれば平成34年1月15日が時効期間の満了となります。(旧法の説明 令和2年4月1日以前の権利関係に適用)
そして上記説明の通り民法457条1項により、
主債務に生じた時効の中断は保証債務に効力を生じますので、C社の消滅時効は商事債権なので、29年1月15日に期間満了となります。
よって、C社に対しても28年7月時点では消滅時効は完成していないので保証債務の請求をすることが可能です。
その他の事項
また、C社が「債務者が行方不明であれば、当社は保証債務の履行義務がない」といっているようですが、
C社とAさんとの「保証契約書」にその旨の条項がなければC社の主張は根拠が無く無効です。
また、(余談ですが)もし保証契約を口頭で締結していて当初から契約書面がない場合(紛失した場合でない)ですが、その場合は保証契約が法的に成立せず、保証契約自体が無効となります。
(民法446条2項 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。)